在宅看取りの現状とは?「痛い在宅医」本の感想

在宅看取りの現状とは?「痛い在宅医」本の感想
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今日は「痛い在宅医」の本の感想です。

痛い在宅医

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本の著者、長尾和弘先生は尼崎市でクリニックを開業され在宅医療も行っています。

自宅で最期を迎えたいという患者さんやご家族のために尽力され著書も多数あるのでご存知の方も多いと思います。

「痛い在宅医」は実のお父様を在宅で看取った娘さんと長尾先生の対談を中心に構成されており、在宅医療の現実がありのままに書かれています。

この本に登場する娘さんは末期癌のお父様を自宅で看取りたいとの思いから経験豊富な在宅医を探しました。もちろん「平穏死」を願っての事です。

しかし病院と在宅医の間での情報共有の不足や在宅医の余命の見立て違いなどの要因が重なり、家族が望むような平穏死をさせてあげることができませんでした。

本の中では家族が医師に電話をしてもすぐに来てくれなかった、という現実が赤裸々に語られています。

苦しそうにしているお父様の様子を見て藁にもすがる思いで医師に電話した家族。

それなのに

「今、運転中なので」と冷たく対応された時の落胆。

苦しみが増していく父を目の前に、どうする事も出来ず最期を迎えてしまった家族の心情を思うと本当に胸が痛みました。

癌末期の在宅看取りが美談になるのは?

私も今年の夏に肺がん闘病中だった父を亡くしました。
一時は在宅で看取る事も考えました。

でも、テレビでもネットでも在宅看取りの美談ばかりがクローズアップされている印象を受けたことと、

同居家族や私の覚悟が決まらなかったこともあり父は病院で息を引き取りました。

認知症でも寝たきりの高齢者でも、そして癌末期の方でも自宅で家族が介護するには大変な苦労が伴います。

その中で癌末期の方の介護は美談で語られることが多いです。

なぜかと言えば、

□死の期限がある程度は予測できること、
□癌末期は痛みや苦しみを伴う事が多いので「可哀想」
という気持ちが働くこと、

そして

□「安らかに最期を迎えさせてあげたい」と
誰もが思うからです。

癌末期の看取りの家族の負担は相当なもの

でも、癌末期の看取りの家族の負担はかなり大きいです。

認知症や寝たきりの高齢者の介護も大変ですが、癌末期の方は通常の介護に加えて緩和ケアも必要になってきます。

緩和ケアとは痛みだけでなく死の恐怖や今後自分はどうなっていくのかといった精神的な苦痛を和らげることも含みます。

普段は穏やかな人でも段々と苦しくなっていく中で家族に当たり散らす事もあるでしょう。

でも看ている家族は何を言われても思い切り喧嘩も出来ず、受け止めるしかありません。

また、死の予測も正確に把握できないので、夜も交代で見る必要があります。もちろん熟睡などは出来ません。

自分の落ち度で死なせてしまってはいけない、という緊張感の中で日々を過ごすことになるのです。

仕事や生活をしながら高齢者を介護するのは大変です。

高齢者の介護の苦労は出口が見えないこと、それに尽きると思います。

それに対して癌末期の方の介護の出口は見える、だけれども「通常の介護よりもっとシビアで家族への負荷は大きい」私はそう思います。

国は在宅介護、在宅看取りを推進しているが・・

超高齢者社会になり病院の数は不足しているのだそうです。特に最期を迎える場所がないとのこと。

そのため国は在宅介護、在宅看取りを推奨しています。しかし、在宅医の数は少なく勤務も過酷なのだそうです。

加えて緩和病棟とは違った看取りのスキルも求められるので経験も必要。長尾医師のような超ベテラン在宅医はそう多くはないというのが現状のようです。

そんな中で一番しわ寄せがいくのは、死が間近な人であり、その家族であるわけです。

国や病院や医療者側から見れば大勢の中の一人の死ですが、本人や家族にとっては人生をかけた一大事です。

そういった側面から見切り発車ではない対応をしてほしいと思います。

現実を知って覚悟の上で看取る

それでも、病院ではなく自宅で最期を迎えたいというのが多くの方の心情だと思います。家族もそれにこたえたいと思う方は多いでしょう。

痛い在宅医に登場する娘さんは、在宅での看取りを選んだことに後悔しているようでした。

もし、24時間訪問診療を謳っていても医師が来てくれない現実や、在宅で看取っても必ずしも平穏な死を迎えられない場合もある、という心の準備が出来ていれば、また違った看取りになったと思われます。

この本に登場する娘さんが本を出す事を快諾してくれたのは、在宅医療の現実を知ってほしいとの気持ちからなのだそうです。

今後は在宅介護、在宅医療は増えるはずです。
この経験を無駄にしないためにも全ての方に是非読んでほしい本だと思います。

最後になりますが、長尾先生が巻末で書かれているとおり、

本に登場する娘さんは家での最期を望んだお父様の願いをかなえて家族一丸となって看取りをしました。その行動は尊いことだと思います。

介護や看取りには後悔がつきものです。人生は一度きり、道は二つ選べないからです。

きれいごとかもしれませんが、
「その時々で一生懸命に考えて下した決断はどれも正しい」

私はそう思っています。